第65回聴覚医学会総会・学術講演会に参加して
第65回聴覚医学会総会・学術講演会に参加して想うこと
今年も10月8、9日にウインクあいちにて行われました聴覚医学会総会・学術講演会に行ってまいりました。今年は弊社がある愛知県名古屋市にて行われたこともあり、2日間フルタイムで参加してまいりました。
今年は新型コロナウイルスの影響で、動画での発表や誌面のみの発表もありましたが、無事に開催され非常に勉強になりました。
今回は特に印象に残っている発表と講演について簡単に抜粋して書きたいと思います。
聞きたくない音をカットするのは良い点ばかりではない
補聴器や集音器と呼ばれるものは音を増幅して装着者に届けるという機器ですが、その中で最近の補聴器は要らない音を抑制する雑音抑制機能、イヤホンをしている方にはノイズキャンセリング機能の方が通りが良いかもしれませんが、そうした機能が備わっているものもあります。
元から我々の聴覚神経機能には騒音下の中でも聞きたい音だけを聞くという機能が自然に備わっています。それはカクテルパーティー効果や選択聴取性などいろいろと呼ばれているものですが、聴力が衰えた高齢者や生まれつき難聴を患っている方、逆に聴覚過敏でいろんな音が聞こえすぎる方など様々な理由があれど、その機能も衰えていることが多いです。以前集音器コラムで紹介した聴覚情報処理障害の方もこうした機能に障害があるのがひとつの原因と言われており、学会の中では聴覚情報処理障害に関した発表も多くみられました。
そうした方が補聴器や集音器を着けると全ての音、生活音などが増幅して聞こえることになるわけで、この補聴器や集音器はうるさいだけで声や音が聞き取れない、全然ダメだとなることが多いわけです。これによって装用が続かないことが多いようで、学会発表の中では聴覚過敏の壁という用語で呼ばれており、装用継続への課題となっているようでした。なので雑音抑制機能で聞きたくない音を制限してくれる補聴器が出ているわけですが、講演の中では雑音抑制機能を使用しすぎるのは良くないという発表のものもありました。
なぜかというと、人間の神経機能というものは面白いもので、健聴者に備わっているような聞きたい音だけを聞くだけという機能は難聴者であっても使っていればある程度の回復は見込めるようなのです。そのため最初から雑音抑制機能で要らない生活音を消すということはその機能の回復のためには良くないということらしいです。とはいえ難聴者の方は補聴器や集音器を装着してもらうとその機能が衰えているので、最初は全ての音が増幅して聞こえるため雑音・生活音も過大となり装用継続へのストレスです。聞きたい音だけ聞こえるようになれば良いというわけではないというのはひとつ大きな勉強になりましたし、とはいえ装用を続けてもらうためにはどうすればいいかというのはこれからの課題と感じました。
聴覚障害という見えない障害に健聴者はどう寄り添えるか
もう一つ、大きく印象に残っている講演として聴覚障碍者でありながら、2020パラリンピックNHKリポーターを務めている後藤佑季さんの講演でした。
講演を聞いていてすぐに感じたのは、後藤佑希さんの喋りの滑らかさです。並々ならぬ努力の賜物だと感じたと同時に、ここまで流暢に話すことが出来ると見ているだけでは聴覚障害者であるとは分からないなと私は感じました。
その中で様々なお話がありましたが、人工内耳(蝸牛に電極を挿入し聴覚を補助する装置)を付けていることで軽度難聴者のレベルまで聞こえるそうですが、スピーカーやマイクなどの音源媒体を通した音は聞き取りづらいこと、音が重なる環境では音を聞き取れないこと、コロナ禍の中でマスクの装着により口の動きが読めないので何をしゃべっているのかの視覚情報が減ってしまうこと、聴覚障碍者だからこそリポーターとして発信できることなど、様々なお話を聞くことが出来ました。
その中で後藤さんの意見として今の社会では障害というのはオープンにして、何に困っているのかは自分で説明して分かってもらう必要があるということをおっしゃっていました。
超高齢化社会へ向かっている日本です。老人性難聴は高齢者の3人に1人、下手をすればもっといると言われており、難聴は最も身近な障害の一つとなっていくのではと考えられます。もう少し身近に考えなければいけないと改めて感じました。同時にそうした障害への理解を深められるような社会を形成できる世の中にもっとなっていくのが望ましいと思いましたし、そのお手伝いが出来るように弊社としても努めてゆきたいです。